正常圧水頭症とは?——「治療で改善が期待できる認知症」と呼ばれる理由
最近、ご家族の歩行に変化が生じた。両足を広げ、小刻みなすり足で歩く。ぼんやりと居眠りをする時間も増えた。「加齢のせい」「足腰の衰え」と片付けていませんか。
その歩行変化は、正常圧水頭症の兆候かもしれません。認知機能障害を伴う疾患の中で、適切な対応により状態の良化が見込める病気です。見落としを防ぐために把握すべきポイントを解説します。
この記事のポイント
- 「足を開いて小刻みに、すり足で歩く」歩き方の変化が、いちばん早く出やすいサインです
- 歩行の障害・認知機能の低下・尿もれの3つがそろったら、この病気を疑います
- たまった髄液を体の別の場所へ流す手術で改善が期待できる、数少ない「治療できる認知症」のひとつです
正常圧水頭症とはどんな病気?
脳と脊髄(せきずい)の周りは、髄液(ずいえき)という水で満たされていて、つくられては吸収される循環を繰り返しています。正常圧水頭症は、この髄液の吸収がうまくいかなくなり、脳室(のうしつ)という脳の中の部屋に髄液がたまって脳室が大きくなり、脳の働きに影響が出る病気です。
代表的な症状は3つあります。
1つ目は歩行の障害です。多くの場合、最初にあらわれます。足を左右に開き、小刻みに、すり足で歩くようになり、方向転換がぎこちなく、転びやすくなります。
2つ目は認知機能の低下です。もの忘れよりも、ぼんやりして反応が遅い、意欲がない、一日中うとうとしている、といった症状が目立つのが特徴です。
3つ目は尿もれ(尿失禁)です。トイレが近くなり、間に合わないことが増えます。
3つすべてがそろうとは限らず、初期は歩行の障害だけのこともあります。「年のせい」「腰や足の問題」と思われて、見逃されやすい病気です。
どのくらいの人にあるの?
はっきりした原因がなく高齢の方に起こるタイプを「特発性(とくはつせい)正常圧水頭症」といい、日本の地域調査では60歳以上の約1%にみられると報告されています。決してまれな病気ではありませんが、年齢による衰えや他の認知症と間違われて、診断されないままの方が少なくないと考えられています。
また、くも膜下出血や頭のけが、髄膜炎(ずいまくえん:脳を包む膜の感染症)のあとに起こるタイプ(続発性)もあります。
なぜ起こるの?
高齢の方に起こる特発性(原因不明)のタイプでは、なぜ髄液の吸収が悪くなるのか、はっきりした原因はまだ分かっていません。
くも膜下出血などのあとに起こる続発性のタイプでは、出血や炎症の影響で髄液の流れや吸収がさまたげられることが原因と考えられています。
どんな検査と治療をするの?
診断の入り口はMRI検査です。脳室の広がりなど、この病気に特徴的な所見がないかを確認します。当院では、もの忘れや歩行の変化のご相談の際、この病気が隠れていないかをあわせて確認しています。
疑わしい場合は、腰から少量の髄液を抜いて、歩行などの症状が改善するかをみる検査(タップテスト)を行います。髄液を抜いて症状が良くなれば、手術の効果が期待できると判断する材料になります。なお、タップテストで改善がはっきりしなくても、手術で良くなる方が一定数いることが分かっており、結果は他の検査とあわせて総合的に判断します。
治療は、たまった髄液を細い管でお腹などに流す「シャント手術」です。歩行の障害を中心に症状の改善が期待でき、日本で行われた臨床試験でも、手術を受けた方の多くで症状の改善が確認されています。症状が出てから早い時期に治療するほど改善が見込みやすいため、早めの受診が大切です。一方で、手術には管の詰まりや感染、髄液が流れすぎることによる頭痛や頭の中の出血(慢性硬膜下血腫)といった合併症の可能性もあり、術後は定期的な確認が必要です。
手術が適応となる場合は、脳神経外科の手術を専門とする医療機関と連携し、責任を持ってご紹介します。術後の経過観察は当院で継続できます。
これって受診すべき?——緊急度の目安
- すぐに119番
- 急に歩けなくなった、急に意識がもうろうとしている(脳卒中など、別の病気の可能性があります)
- 早めに受診
- 数週間〜数か月で、歩行の変化・ぼんやり・尿もれが明らかに進んできた
- くも膜下出血や頭のけがのあとで、歩行や認知機能の変化が出てきた
- 近いうちに当院へご相談
- 足を開いて小刻みに、すり足で歩くようになった。よく転ぶようになった
- ぼんやりして反応が遅い、意欲が落ちた、うとうとしていることが多い
- トイレが近い、間に合わないことが増えた(特に歩行の障害と重なっている場合)
※ご本人が受診に乗り気でない場合など、ご家族のみでのご相談は保険診療の対象外となります。まずはお電話でご相談ください。
よくあるご質問
本当に「治る認知症」なのですか?
すべての方が完全に元どおりになるわけではありません。ただ、シャント手術によって歩行の障害を中心に症状の改善が期待できる、治療の可能性がある病気です。早く見つけるほど改善が見込みやすいため、「治る認知症」と紹介されることがあります。
アルツハイマー型認知症との違いは何ですか?
アルツハイマー型はもの忘れが中心ですが、正常圧水頭症では歩行の障害が先に出ることが多く、ぼんやり・意欲低下が目立ちます。MRIで特徴的な所見を確認して見分けます。両方を合併していることもあり、その場合は手術の効果が限られることもあります。
手術は大がかりなものですか?
シャント手術は、たまった髄液を細い管で体の別の場所(多くはお腹)に流す手術です。頭から管を入れる方法と、腰から入れる方法があり、方法や体への負担は状態により異なります。全身麻酔下による手術ですが脳神経外科手術の中では一般的な手術です。
歩き方の変化だけでも受診してよいですか?
はい、ぜひご相談ください。歩行の障害はこの病気でいちばん早く出やすいサインです。「整形外科の問題」と思われがちですが、脳が原因のこともあります。
おわりに――その歩き方、「年のせい」ではないかもしれません
正常圧水頭症は、見逃さなければ改善のチャンスがある病気です。「歩き方が変わった」「ぼんやりが増えた」——その変化を年のせいと決めつける前に、一度、脳の検査を受けてみてください。
当院の理事長は、認知症予防への取り組みを『認知症予防のカキクケコメソッド』(かんき出版)という書籍にまとめています。もの忘れが気になり始めた方の日々のヒントに、あわせてご覧ください。
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次のうち、1つでも当てはまる方はご相談ください
- 足を開いて小刻みに、すり足で歩くようになった
- 転ぶことが増えた
- ぼんやり・うとうとしている時間が増えた
- 尿が間に合わないことが増えた
ご家族のみのご相談も、お電話で承ります。
参考文献
- 日本正常圧水頭症学会・厚生労働科学研究費補助金難治性疾患政策研究事業「特発性正常圧水頭症の診療ガイドライン作成に関する研究」班(監修)『特発性正常圧水頭症診療ガイドライン 第3版』メディカルレビュー社, 2020.
- 日本神経学会(監修)『認知症疾患診療ガイドライン2026』医学書院, 2026.
- Tanaka N, et al. (2009). Prevalence of possible idiopathic normal-pressure hydrocephalus in Japan: the Osaki-Tajiri project. Neuroepidemiology, 32(3), 171-175. DOI: 10.1159/000186501
- Kazui H, et al. (2015). Lumboperitoneal shunt surgery for idiopathic normal pressure hydrocephalus (SINPHONI-2): an open-label randomised trial. Lancet Neurology, 14(6), 585-594. DOI: 10.1016/S1474-4422(15)00046-0
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