病名から探す 認知症・もの忘れ

軽度認知障害(MCI)とは?「年のせい」と決めつける前に知ってほしいこと

公開日 監修:理事長 菅原 道仁(脳神経外科専門医)

「最近、同じことを何度も聞いてしまう」「物をしまった場所が思い出せない」——そんな変化に気づき、少し不安になっていませんか。あるいは、ご家族の様子を見て「前と違うかも」と感じている方もいらっしゃるかもしれません。

もの忘れの背景には、加齢による自然な変化もあれば、軽度認知障害(MCI)と呼ばれる状態が隠れていることもあります。MCIは「認知症の一歩手前」にあたる段階ですが、この時期に気づくことで、できることが増えます。この記事では、MCIの特徴・原因・検査・生活の工夫を、わかりやすくお伝えします。

この記事のポイント

  • MCIは、もの忘れなどはあるものの、日常生活はおおむね自分の力で送れている状態です
  • 日本の65歳以上では、およそ6〜7人に1人(約15%)がMCIと推計されています
  • MCIの方が認知症に進む割合は年に5〜10%前後と報告されていますが、進まない方や、もとの状態に戻る方も少なくありません
  • 治療できる原因が隠れていることもあるため、早めに検査を受けることが大切です

軽度認知障害(MCI)とは

MCI(Mild Cognitive Impairment)は、「健康な状態」と「認知症」の中間にあたる状態です。

記憶力や判断力などが、同じ年代の人と比べて明らかに低下しているものの、買い物・料理・お金の管理といった日常生活は、少しの工夫や周囲のさりげない手助けがあれば、おおむね自分でこなせます。

認知症との一番の違いは、この「日常生活が自立できているかどうか」です。生活に継続的な支援が必要になってくると、認知症と判断されます。

どんな変化が起こる? MCIのサイン

MCIで最も多いのは、もの忘れです。

  • 同じことを何度も聞いてしまう
  • 約束を忘れる
  • 物をどこに置いたか分からなくなる

こうしたことが、同年代の人と比べて目立って増えてきます。ご本人が「最近もの忘れが増えた」と自覚していることも多く、ご家族が先に気づくこともよくあります。

もの忘れのほかに、次のような変化が出ることもあります。

  • 趣味や外出への意欲が落ちる
  • 旅行の計画や新しい機器の操作など、段取りが必要なことが苦手になる
  • 言葉がすぐに出てこない

「年のせいだから」と見過ごされやすいのが、MCIのむずかしいところです。

MCIはどのくらいの人にみられる?

厚生労働省が2022年に行った全国調査では、65歳以上の約15%(推計559万人)がMCIにあたると推計されています。認知症の方(約12%、443万人)よりも多く、決してめずらしい状態ではありません。海外の調査では、年齢が上がるほど割合が高くなり、80代では2割を超えると報告されています。

MCIの方がその後どうなるかについては、複数の研究をまとめた解析で、年に5〜10%前後が認知症に進むと報告されています(専門外来で診断された方では高め、地域住民の調査では低めになる傾向があります)。

一方で、進行せずに安定している方や、認知機能がもとの状態に戻る方も一定数いることが分かっています(研究をまとめた解析では、数年の追跡で2〜3割程度が「正常」に戻ったと報告されています)。

だからこそ、MCIの段階で気づくことに大きな意味があります。

MCIの原因

MCIの背景には、いくつかの原因があります。

1. アルツハイマー病の前段階

最も多い原因です。「アミロイドβ(ベータ)」というたんぱく質が、長い年月をかけて脳にたまり、神経細胞の働きを妨げることが関係していると考えられています。

2. 脳の血管の障害

小さな脳梗塞や脳出血などが原因になることもあります。この場合、高血圧・糖尿病・脂質異常症(コレステロールや中性脂肪が高い状態)といった生活習慣病が背景にあることが多いです。

3. 治療で改善が期待できる原因

甲状腺の病気、ビタミン不足、うつ状態、お薬の影響、睡眠の問題などが、もの忘れの原因になっていることがあります。これらは適切に治療すれば改善が期待できるため、見逃さないことがとても大切です。

原因を見きわめるためにも、きちんとした検査をおすすめします。

MCIの検査と治療

検査の流れ

  • 問診:ご本人とご家族から、いつ頃からどんな変化があるかをうかがいます
  • 認知機能検査:質問形式のテストで、記憶力や判断力の状態を評価します
  • 血液検査:甲状腺の病気やビタミン不足など、治療できる原因がないかを調べます
  • 画像検査(MRIなど):脳の萎縮(縮み)の程度や、脳血管の病気の有無を確認します

必要に応じて、より詳しい検査ができる専門機関をご紹介することもあります。

治療について

MCIそのものを治す薬は、現在のところありません。ただし、進行をゆるやかにするためにできることは多くあります。

  • 運動習慣、頭を使う活動、人との交流
  • 高血圧・糖尿病・脂質異常症などの管理
  • 隠れている原因(甲状腺・ビタミン・うつ・薬など)への治療

新しい薬について

アルツハイマー病が原因のMCIに対しては、脳にたまったアミロイドβを取り除く働きをもつ「抗アミロイドβ抗体薬」が日本でも使えるようになっています。臨床試験では、症状の進行を一定程度ゆるやかにする効果が示されました。

ただし、この薬は認知症を治したり、進行を完全に止めたりする薬ではありません。使用にあたっては、アミロイドβが脳にたまっていることを確認する特殊な検査(アミロイドPETや脳脊髄液検査)が必要で、脳のむくみや小さな出血といった副作用に注意しながら、定期的なMRIによる経過観察が求められます。対象となるかどうかは、専門の医療機関での慎重な判断が必要です。気になる方はご相談ください。

認知機能を守るための生活の工夫

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「年のせい」と思う前に

「もの忘れは増えたけれど、年のせいだろう」。そう思って受診が遅れてしまう方は、とても多くいらっしゃいます。

しかし、MCIは早く気づくことで選択肢が広がる大切な時期です。治療できる原因が見つかることもありますし、生活の工夫を始めるきっかけにもなります。検査を受けた結果「年齢相応で心配ない」と分かれば、それはそれで大きな安心につながります。

ご本人が気になっている場合も、ご家族が気になっている場合も、どうぞためらわずに一度ご相談ください。

受診の目安

次のようなことに心当たりがあれば、一度検査を受けてみることをおすすめします。

  • 同じことを何度も聞いてしまう、と家族に言われる
  • 約束や、物をしまった場所を忘れることが増えた
  • 料理の段取りや旅行の計画など、複雑なことが苦手になった
  • 趣味や外出への意欲が落ちてきた
  • 家族から見て「以前と違う」と感じる(ご家族だけのご相談も可能です)
  • 認知症のご家族がいて、早めに調べておきたい

よくあるご質問

MCIと認知症はどう違うのですか?

一番の違いは、日常生活が自立できているかどうかです。もの忘れはあっても、買い物・料理・お金の管理などがおおむね一人でできていればMCI、生活に継続的な支援が必要になってくると認知症と判断されます。

MCIになったら、必ず認知症になりますか?

いいえ。年に5〜10%前後の方が認知症に進むと報告されている一方で、進行しない方や、もとの状態に戻る方もいます。生活習慣の見直しや、隠れた原因の治療など、できることは多くあります。

何科を受診すればよいですか?

脳神経内科・脳神経外科・精神科・もの忘れ外来などが専門です。当院では、認知機能検査・血液検査・MRIなどを組み合わせ、原因も含めて調べることができます。

どんな検査をしますか?

問診、質問形式の認知機能検査、血液検査、MRIなどの画像検査が基本です。脳の萎縮の程度や脳血管の病気、治療できる別の原因がないかを確認します。所要時間や費用については、お気軽にお問い合わせください。

本人が受診をいやがります。家族だけで相談できますか?

ご本人がいらっしゃらない状態での相談は、健康保険を使った診察の対象にはなりません。そのため、まずはお電話でご相談ください。日ごろの様子をうかがったうえで、ご本人が受診しやすい声のかけ方や来院のきっかけづくりについて、一緒に考えます。ご本人と一緒にご来院いただければ、通常どおり検査・診察を行います。

おわりに

もの忘れへの不安は、ひとりで抱え込むと大きくなりがちです。「気のせいかもしれない」と思う段階でも、検査を受けて状態を知ることは、これからの生活を安心して組み立てる第一歩になります。

当院では、ご本人にもご家族にも寄り添いながら、ていねいに検査と説明を行っています。どうぞお気軽にご相談ください。

「気のせいかな?」の段階でも大丈夫です。

もの忘れが気になったとき、いちばん多いご相談は「こんなことで受診していいのか分からなかった」という声です。検査を受けて「年齢相応」と分かれば、それだけで肩の荷が下りる方も多くいらっしゃいます。

ご本人が受診をためらっているときは、まずご家族からお電話ください。

「病院に行こう」と言うと怒ってしまう、「自分は大丈夫」と認めたがらない——そんなご家庭は少なくありません。

ご本人がいらっしゃらない場合、健康保険を使った診察としてはお受けできませんが、ご家族からのお電話でのご相談は受け付けています。日ごろの様子をうかがいながら、ご本人の負担が少ない受診のすすめ方を一緒に考えます。

気になる症状は、お近くのクリニックへご相談ください

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