もの忘れが気になる|加齢によるもの忘れと認知症の違い、受診の目安

公開日 監修:理事長 菅原 道仁(脳神経外科専門医)

人の名前がすっと出てこない。何をしに部屋へ来たのか、思い出せない。「同じ話をしていたよ」と家族に指摘された。——年齢を重ねると、誰にでもこうした経験は増えていきます。「もしかして認知症では」と、ひとりで不安を抱えていませんか。

もの忘れの多くは、心配のいらない加齢によるものです。ただし、なかには認知症や、その一歩手前の軽度認知障害(MCI:エムシーアイ)、そして原因を治療することで改善が見込める「治療できるもの忘れ」が隠れていることがあります。このコラムでは、その見分け方と受診の目安をお伝えします。

この記事のポイント

  • 加齢によるもの忘れは「体験の一部」を忘れ、ヒントがあれば思い出せます。認知症では「体験そのもの」を忘れ、忘れたという自覚も薄れていく傾向があります
  • 認知症の一歩手前の軽度認知障害(MCI)は65歳以上の約15%にみられます。この段階で気づくと、生活習慣の見直しや治療の選択肢を早くから検討できます
  • 正常圧水頭症や慢性硬膜下血腫など、治療によって改善が見込めるもの忘れもあり、検査で見分けることが大切です

加齢によるもの忘れと認知症は、どこが違うの?

加齢によるもの忘れ 認知症によるもの忘れ
忘れる範囲 体験の一部(食事の内容など) 体験の全体(食事をしたこと自体)
ヒントがあると 思い出せる 思い出せないことが多い
もの忘れの自覚 ある(「忘れっぽくなった」と気にする) 薄れていく(周囲が先に気づく)
進行 ゆっくりで、生活に大きな支障はない 進行し、生活に支障が出てくる
日常生活 自分でできている 手助けが必要になってくる

この表はあくまで目安です。認知症のごく初期には、ご本人がもの忘れをはっきり自覚していることも少なくありません。当てはまるかどうか迷う場合は、一度ご相談ください。

もの忘れの原因には、どんな病気があるの?

原因 特徴 対処の方向性
軽度認知障害(MCI) もの忘れはあるが、日常生活は自分でできる。認知症の一歩手前 生活習慣の見直しや治療の選択肢を早めに検討
アルツハイマー型認知症 もっとも多い認知症。新しいことが覚えにくくなる 早期の診断と、治療・ケアの計画づくり
血管性認知症 脳梗塞(のうこうそく)・脳出血が背景。階段状に進むことがある 脳血管の病気と生活習慣病の管理
正常圧水頭症(せいじょうあつすいとうしょう) もの忘れに、歩きにくさ・尿もれをともなう 検査で見つかれば、手術による治療で改善が見込める場合がある
慢性硬膜下血腫(まんせいこうまくかけっしゅ) 頭を打った数週間〜数か月後に、もの忘れ・ぼんやり・歩きにくさ 手術で改善が見込めることが多い。早めに受診を
その他(甲状腺の病気、ビタミン不足、うつ状態、薬の影響、難聴など) もの忘れに似た症状が出ることがある 原因への対応で改善が見込める場合がある

軽度認知障害(MCI)は65歳以上の約15%にみられます。放置した場合、海外の複数の研究をまとめた解析では年5〜10%程度の方が認知症へ進行すると報告されている一方、およそ2〜3割の方は正常な状態に戻るという報告もあります。この割合は調査の対象や方法によって幅がありますが、「年のせい」と見過ごさず、この段階で気づくことに大きな意味があります。

関連する病気のくわしい解説

  • 軽度認知障害(MCI)とは?認知症の一歩手前で気づくために
  • アルツハイマー型認知症とは?初期症状・進行・現在の治療
  • 血管性認知症とは?脳梗塞・脳出血の後に起こる認知症
  • 正常圧水頭症とは?治療で改善が見込める場合がある認知症
  • 慢性硬膜下血腫とは?頭を打って数週間後に出る症状に注意

病院ではどんな検査をするの?

もの忘れの診療では、ご本人やご家族から、いつから・どんなことを忘れるのか、生活の様子を詳しくうかがいます。あわせて、質問形式の認知機能検査(記憶や判断力を調べる簡単なテスト)で、現在の状態を評価します。

そのうえで、当院ではMRIなどの画像検査を行い、脳の萎縮(いしゅく:脳が縮むこと)の程度や、脳梗塞・脳出血のあと、正常圧水頭症、慢性硬膜下血腫など、もの忘れの原因となる病気が隠れていないかを確認します。必要に応じて、甲状腺の機能やビタミンの値などを血液検査で調べることもあります。治療で改善が見込める原因を見逃さないことが、検査の大切な目的です。

受診の目安

  • 当日〜早めに受診
    • 頭を打った後(数週間〜数か月後)に、もの忘れやぼんやり、歩きにくさが出てきた
    • 数日〜数週間のあいだに、急にぼんやりする・話のつじつまが合わなくなった(感染症や薬の影響、脳の病気の可能性があります)
    • 1〜2か月の単位で、もの忘れが明らかに進んでいる
  • 近いうちに当院へご相談
    • 同じことを何度も言う・聞くと家族に指摘される、約束したこと自体を忘れる
    • 道に迷う、料理の段取りや金銭管理など、できていたことができなくなってきた
    • 賞味期限の管理ができない、片付けができなくなっている
    • 歩幅が狭くなり、よちよち歩きになった。尿もれをともなう(正常圧水頭症のサインのことがあります)
    • 認知症の家族歴があり、早めにチェックしておきたい

よくあるご質問

どこからが「病的なもの忘れ」ですか?

目安は「体験そのものを忘れるかどうか」と「生活に支障が出ているか」です。食事の内容を忘れるのは加齢の範囲のことが多いですが、食事をしたこと自体を忘れる場合は、一度検査をおすすめします。

本人が受診を嫌がります。家族だけで相談できますか?

ご本人がいらっしゃらない場合、原則として保険診療の対象にならないため、まずはお電話でご相談ください。「脳の健康チェック」という形なら、ご本人も受け入れやすいことがあります。また、お住まいの地域の「地域包括支援センター」でも、ご家族からの相談を受け付けています。

もの忘れは治りますか?

原因によります。正常圧水頭症や慢性硬膜下血腫、甲状腺の病気などが原因の場合は、治療で改善できることがあります。アルツハイマー型認知症などでも、早い段階で見つかるほど、治療やケアの選択肢が広がります。

受診のとき、何を伝えるとよいですか?

いつ頃から・どんなことを忘れるか、生活で困っていること、飲んでいる薬(特に血液をサラサラにする薬)、頭を打ったことがあるかをメモしてお持ちください。日頃の様子をご存じのご家族が一緒に受診していただくことが、より正確な診断につながります。

おわりに――「年のせい」で片づける前に

もの忘れは、ご本人にとってもご家族にとっても、口に出しにくい心配ごとです。しかし、もの忘れの原因は診察と検査で見分けられることが多く、治療で改善が見込めるものも、進行をゆるやかにする選択肢があるものもあります。早く知ることは、怖いことではなく、備えることです。

なお、当院理事長・菅原の著書『認知症予防のカキクケコメソッド』(かんき出版)では、認知症予防のために日常生活でできる工夫を紹介しています。あわせてご参考ください。
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もの忘れが気になる方、ご家族のもの忘れが心配な方へ

次のような方は、一度当院へご相談ください。

  • 同じことを何度も聞くと、家族に言われたことがある
  • 約束や、物のしまい場所を忘れることが増えた
  • 家族のもの忘れが気になっている
  • 認知症になる前に、脳の状態を確認しておきたい

気になる症状は、お近くのクリニックへご相談ください

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