慢性硬膜下血腫とは?——頭を打って数週間後に出る症状に注意
数週間前に転んで頭をぶつけた。そのときは何ともなかったのに、最近どうも頭が重い。歩くとふらつく。もの忘れも増えた気がする——。あるいは、ご家族の様子をみて「急にぼんやりするようになった」「認知症が一気に進んだのでは」と心配されている方もいらっしゃるかもしれません。
それは、慢性硬膜下血腫(まんせいこうまくかけっしゅ)という病気かもしれません。頭を打ったあと、脳を包む硬膜(こうまく)という膜と脳とのすき間にじわじわと血がたまり、たまった血(血腫)が脳を圧迫する病気です。このコラムでは、慢性硬膜下血腫の特徴と、気づくためのポイント、治療の考え方についてお伝えします。

この記事のポイント
- 頭を軽くぶつけただけでも起こります。ご本人やご家族が打撲を覚えていないこともよくあります
- 打った直後ではなく、3週間〜数か月後に、頭痛・もの忘れ・歩きにくさ、トイレの感覚がなくなった、などがじわじわ現れるのが特徴です
- 手術で改善が期待できる病気で、「治療できる認知症」のひとつとして知られています。年のせいと決めつけず、検査で確認しましょう
慢性硬膜下血腫とはどんな病気?
いちばんの特徴は、頭を打ってから症状が出るまでに時間が空くことです。打った直後は何ともなく、検査でも異常がなかったのに、3週間から数か月ほど経ってから、少しずつ症状が現れます。まさに「打ったことを忘れたころにやってくる」病気です。
症状は、たまった血腫が脳を圧迫することで起こります。頭痛のほか、もの忘れやぼんやりするといった認知症のような症状、歩きにくさ・ふらつき、片方の手足の動かしにくさや失禁などが代表的です。高齢の方では「急に元気がなくなった」「認知症が急に進んだ」ようにみえることもあります。
症状がゆっくり進むため、「年のせいだろう」「認知症だろう」と思われて発見が遅れがちです。しかし慢性硬膜下血腫は、手術で改善が期待できる病気です。だからこそ「治療できる認知症」のひとつに数えられ、早く気づくことに大きな意味があります。
どんな人に起こりやすいの?
高齢の方に多く、男性は女性の2〜3倍かかりやすいことが国内外の調査で示されています。日本の調査では、年間およそ人口10万人あたり20人に起こると報告されており、高齢になるほど頻度が上がります。高齢になると脳がわずかに縮み、硬膜と脳のすき間が広がるため、軽い打撲でもすき間の血管が切れて、血がたまりやすくなるのです。
お酒をよく飲む方、血液を固まりにくくする薬(抗血小板薬・抗凝固薬)を飲んでいる方も、リスクが高くなることが知られています。高齢化とともに、患者さんは増える傾向にあります。
なぜ、頭を打った「あと」から起こるの?
原因の多くは、頭の軽い打撲です。転んで頭をぶつけた、ドアや棚の角に頭を打った、といった程度の軽いけがでも起こります。打撲のあと、硬膜と脳のすき間で少しずつ出血し、血腫が薄い膜に包まれながら、数週間かけてゆっくり大きくなっていくと考えられています。このため、症状が出るのは打撲からしばらく経ってからになるのです。

きっかけとなった打撲がとても軽く、ご本人もご家族も覚えていないことはよくあります。はっきりした打撲がないのに起こることもあります。「打った覚えがないから違う」とは言い切れない病気です。
どうやって治すの?
診断は、CTやMRIなどの画像検査でつきます。当院では、症状とご様子を丁寧にうかがったうえで、画像検査で血腫の有無を確認します。

血腫が小さく症状が軽い場合は、経過をみることもあります。血腫が自然に吸収されて治ることもあるためです。この場合も、血腫が大きくならないか、定期的に画像検査で確認します。
確立した薬物療法はないのは事実ですが、止血剤や漢方薬「五苓散」を使用する場合もあります。
確実な治療方法は手術療法です。
血腫が大きく症状が出ている場合は、手術で血腫を抜く治療が標準的です。頭の骨に小さな穴をあけて、たまった血を洗い流す「穿頭術(せんとうじゅつ)」という手術で、局所麻酔で受けられることが多く、高齢の方でも体への負担が比較的少ない手術です。手術が必要と判断した場合は、脳神経外科手術を専門とする連携医療機関へ責任をもってご紹介し、術後の経過フォローは当院で続けられます。
なお、手術後も1〜2割程度の方で血腫が再びたまる(再発する)ことが報告されており、しばらくは定期的な検査で経過を確認していきます。
受診の目安
- すぐに救急車(119番)を呼んでください
- 呼びかけへの反応が鈍い
- 意識がもうろうとしている
- けいれんを起こした
- 当日中に受診してください
- 片方の手足が急に動かしにくくなった、ろれつが回らなくなった
- 頭痛がどんどん強くなっている、嘔吐を繰り返している
- 近いうちに当院へご相談ください
- 頭を打ってから数週間〜数か月のあいだに、頭痛・もの忘れ・ふらつき・手足の動かしにくさが出てきた
- 高齢のご家族が、急にぼんやりする・元気がなくなった・認知症が急に進んだようにみえる(打撲の記憶がなくても検査をおすすめします)
- 血液を固まりにくくする薬を飲んでいて、頭を打った(軽い打撲でも一度ご相談ください)
救急安心センター事業「#7119」(地域により実施状況が異なります)や、お子さんの場合は小児救急電話相談「#8000」で、受診の緊急度を相談できます。明らかな意識の異常やけいれんがあれば、迷わず119番してください。
総務省消防庁ホームページ「救急安心センター事業(#7119)ってナニ?」
よくあるご質問
頭を打った覚えがないのに、慢性硬膜下血腫になることはありますか?
あります。きっかけとなる打撲がとても軽く、ご本人が覚えていないことはよくあります。はっきりした打撲がなく起こることもあります。症状があれば、打った記憶の有無にかかわらず検査を受けましょう。
手術は大がかりなものですか?
標準的な穿頭術は、頭の骨に小さな穴をあけて血腫を洗い流す手術で、局所麻酔で受けられることが多く、高齢の方でも比較的受けやすい手術です。手術が必要な場合は、当院から手術を専門とする連携医療機関へご紹介します。
認知症と間違われることがあるというのは本当ですか?
本当です。もの忘れやぼんやりした様子が数週間の単位で進むため、認知症と思われてしまうことがあります。慢性硬膜下血腫は手術で改善が期待できるため、「治療できる認知症」のひとつに数えられています。急に進むもの忘れは、一度画像検査で確認することが大切です。
放っておくとどうなりますか?
血腫が大きくなると脳の圧迫が強まり、歩行障害、失禁、意識障害など重い症状につながることがあります。ゆっくり進む病気だからこそ、気づいた時点で受診することが大切です。怖がらせるためではなく、「調べればすぐ分かり、治療できる病気」だからこそ、早めの検査をおすすめしています。
おわりに——「年のせい」にする前に、一度確認を
頭を打ったあとの数週間、体調の変化に気を配ること。そして、ゆっくり進むもの忘れやふらつきを「年のせい」と決めつけないこと。慢性硬膜下血腫は、この2つを知っているだけで見つけられる、そして治療できる可能性のある病気です。
次のような方は、一度当院へご相談ください
- 頭を打ってから数週間後に、頭痛・ふらつき・もの忘れが出てきた
- 高齢の家族の様子が、ここ数週間で急に変わった
- 血液を固まりにくくする薬を飲んでいて、最近頭をぶつけた
当院では、頭のけが・頭部外傷の外来で、CT・MRIによる検査から術後の経過フォローまで対応しています。
「最近、父(母)の様子がいつもと違う」——そんな小さな違和感でも、どうぞお気軽にご相談ください。頭を打ったかどうか、はっきりしなくても大丈夫です。いつ頃から、どんな変化があったかをうかがい、必要に応じて画像検査で確認します。
参考文献
- 日本脳神経外科学会・日本脳神経外傷学会 監修、頭部外傷治療・管理のガイドライン作成委員会 編『頭部外傷治療・管理のガイドライン 第4版』医学書院. https://www.igaku-shoin.co.jp/book/detail/89453
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