脳しんとうとは?——スポーツや転倒で頭を打ったときの正しい対応
試合中に相手と激しくぶつかって、頭を打った。意識はあるし、本人は「大丈夫、続けられる」と言っている。でも、どこか動きがぼんやりしていて、さっきのプレーを覚えていないようだ——。
そんな場面に立ち会ったことはありませんか。
それは脳しんとう(脳震盪)かもしれません。脳しんとうとは、頭に強い衝撃を受けたことで、脳の働きが一時的に乱れる状態です。「気を失う=脳しんとう」と思われがちですが、実際には意識を失わないケースのほうが多く報告されています。
このコラムでは、脳しんとうの見分け方、直後の正しい対応、そして安全にスポーツへ戻るための進め方をお伝えします。

この記事のポイント
- 意識を失わなくても脳しんとうは起こります。「ボーッとする」「覚えていない」も大切なサインです
- 疑ったら、その日は運動を中止。症状が悪化しないか、まわりの人が見守ってください
- 回復しないうちに再び頭を打つと、重い障害につながることがあります。復帰は焦らず段階的に
- ラグビーでは、日本ラグビー協会が復帰までの最短日数を定めています
脳しんとうとは?意識を失わなくても起こるの?
起こります。むしろ、意識を失う脳しんとうは全体の一部で、多くの場合は意識が保たれています。「気を失っていないから大丈夫」という思い込みが、いちばんの落とし穴です。
主な症状
症状は受傷直後だけでなく、数時間〜数日たってから目立ってくることもあります。ご本人は「たいしたことない」と感じていても、まわりから見ると様子がおかしい、ということも少なくありません。
ラグビー、サッカー、柔道、スノーボードなど、体がぶつかったり転んだりしやすいスポーツのほか、交通事故や日常生活での転倒でも起こります。
なぜ起こるの?検査で分かるの?
頭に強い衝撃が加わると、頭蓋骨の中で脳が揺さぶられます。この揺れで脳の神経の働きが一時的に乱れるのが脳しんとうです。頭を直接ぶつけていなくても、体への強い衝撃で頭が大きく揺さぶられれば起こりえます。
CTやMRIなどの画像検査では、はっきりした異常が写らないことが多いのも特徴です。画像検査の役割はむしろ、頭の中の出血など、脳しんとうより重いけがが隠れていないかを確認することにあります。だからこそ、症状の経過を丁寧にみることが診断の中心になります。
疑ったら、まず何をすればいい?

その日は必ずプレーを中止する
スポーツ中に脳しんとうが疑われたら、まずプレーを中止することが大原則です。「大丈夫」と本人が言っても、その日は競技や練習に戻らないでください。
24時間程度は、まわりの人が見守る
受傷後、しばらく(目安として24時間程度)は、症状が悪化しないか、まわりの人が見守りましょう。
- 一人きりにしない
- 飲酒を避ける
- 車の運転を控える
最初の1〜2日は「頭も体も休ませる」。ただし休みすぎない
一方で、症状が落ち着いてきたら、ずっと暗い部屋で寝ているのではなく、症状が悪化しない範囲で散歩などの軽い活動や日常生活を少しずつ再開していくことが、現在の国際的な指針では勧められています。長期間の完全な安静は、かえって回復を遅らせる可能性が指摘されています。
いつからスポーツに戻れるの?
症状が完全になくなったことを確認しながら、段階的に戻すのが原則です。

- 日常生活(学校・仕事)
- 軽い有酸素運動(ウォーキング、軽いジョギング)
- 競技に合わせた運動(接触なし)
- 通常練習(接触なし)
- 接触ありの練習
- 試合復帰
各段階は少なくとも24時間あけ、症状が出たら一つ前の段階に戻ります。多くの場合、復帰までは1週間以上かかります。お子さん・学生の場合は、スポーツより先に学校生活に問題なく戻れることを確認するのが順序です。競技への本格復帰は、医師の確認を受けてから進めるのが安全です。
焦る気持ちはよく分かります。しかし、脳しんとうから回復しないうちに再び頭に衝撃を受けると、脳が急激に腫れて命に関わる状態(セカンドインパクト症候群)になった例が、主に10代の若い選手で報告されています。また、脳しんとうを何度も繰り返すことが、その後の脳の健康に影響する可能性も指摘されています(ただし、因果関係については現在も研究が続いています)。
「すぐ戻る」ことよりも「きちんと治してから戻る」ことが、選手生命にとっても大切です。
ラグビー選手の方へ——日本ラグビー協会が定める復帰までの日数
ラグビーでは、脳しんとうからの復帰について、日本ラグビーフットボール協会(JRFU)が「段階的競技復帰(GRTP:Graduated Return To Play)」のルールを定めています。「症状が消えたから」「試合が近いから」という理由で、自己判断で早めることはできません。
カテゴリー別の最短復帰日数(JRFU通達より)
| カテゴリー | 復帰までの最短日数 |
|---|---|
| 中学生以下 | 23日 |
| 高校生・高専生 | 21日(3週間) |
| 18歳以上の大学・社会人・クラブ | 原則 21日(2週間の休養+1週間の段階的復帰)。脳しんとうの既往がなく、チームに医療体制があり、一定の条件を満たす場合に限り最短 14日 |
| HIA(ヘッド・インジュリー・アセスメント)が適用されるトップレベルの試合 | 脳しんとうの既往がある選手・症状が続く選手は最低12日間の休養。復帰には独立した脳振盪専門医の承認が必要 |
なお、協会が「脳しんとうの既往あり」とみなす条件には、過去3か月以内の受傷、過去1年間で3回以上の受傷、これまでに5回以上の受傷、前回の回復に21日以上かかったこと、などが含まれます。当てはまる選手は、より慎重に(=より長い期間をかけて)復帰を進めることになります。
復帰には「証明書」が必要です
JRFUの段階的競技復帰では、復帰にあたって医師の署名が入った「段階的競技復帰証明書」が求められます。頭を打った当日に受診しておくと、受傷日の記録が残り、その後の復帰計画(何日目にどの段階まで進めるか)を立てやすくなります。
若い選手ほど復帰までの日数が長く設定されているのは、成長期の脳は回復に時間がかかり、回復前に再び衝撃を受けたときの危険が大きいと考えられているためです。「早く復帰を!」というチームや保護者の気持ちは自然なものですが、協会のルールは選手を守るためのものです。
※復帰日数の規定は改訂されることがあります。最新の内容は、所属チーム・都道府県協会、またはJRFUの安全対策サイト(https://www.jrfuplayerwelfare.com/)でご確認ください。
受診の目安
- すぐに救急車(119番)を呼んでください
- 呼びかけへの反応が鈍い、意識がもうろうとしている
- けいれんを起こした
- 頭痛がどんどん強くなる、嘔吐を繰り返す
- 手足に力が入らない、ろれつが回らない
(脳しんとうより重いけが=頭の中の出血などの可能性があります)
- 当日中に受診してください
- 頭を打ったあと、ぶつかった前後のことを覚えていない
- 頭痛・めまい・吐き気・ボーッとする感じが続いている、少しずつ強くなっている
- 近いうちに当院へご相談ください
- 数日たっても、集中できない・頭が重い・眠れないなどの不調が続いている
- スポーツへの復帰時期を相談したい
- ラグビーの復帰に必要な証明書について相談したい
救急安心センター事業「#7119」(地域により実施状況が異なります)や、お子さんの場合は小児救急電話相談「#8000」で、受診の緊急度を相談できます。
明らかな意識の異常やけいれんがあれば、迷わず119番してください。
総務省消防庁ホームページ「救急安心センター事業(#7119)ってナニ?」
よくあるご質問
意識を失っていなければ、脳しんとうではないですよね?
いいえ。意識を失う脳しんとうはむしろ一部で、頭がボーッとする、記憶が飛ぶ、ふらつくといった症状だけでも脳しんとうは起こっています。意識の有無だけで「軽いけが」と判断しないことが大切です。
いつからスポーツに戻れますか?
症状が完全になくなってから、軽い運動→通常練習→接触あり練習→試合と、段階的に戻すのが原則です。各段階に最低24時間をかけて、通常は復帰まで1週間以上かかります。ラグビーなど、競技団体が復帰までの最短日数を定めている場合は、そのルールに従います。焦って戻ると回復が長引いたり、重大な事故につながったりすることがあります。復帰の時期は医師に確認しながら進めましょう。当院でもご相談いただけます。
ラグビーの試合復帰に必要な証明書は、当院で書いてもらえますか?
診察のうえ、症状が消失し、段階的競技復帰の各段階を問題なく進めたことが確認できれば、日本ラグビーフットボール協会の「段階的競技復帰証明書」に対応しています。受傷から日数が経っている場合も、これまでの経過をお聞かせください。
病院ではどんな検査をしますか?
症状の経過を詳しくうかがい、必要に応じてCTやMRIなどの画像検査で、頭の中に出血などの重いけがが隠れていないかを確認します。脳しんとう自体は画像に写らないことが多いため、症状の評価が中心になります。
子どもが頭を打ちました。当日気をつけることは?
当日は激しい遊びや運動を避けて安静にし、大人がそばで様子を見守ってください。頭痛の悪化、繰り返す嘔吐、ぐったりする、呼びかけへの反応が鈍いなどがあれば、夜間でもすぐに受診してください。また、お子さんは大人より回復に時間がかかることがあります。学校生活に戻ってから、運動を再開する順序で進めましょう。
おわりに——「大丈夫」の一言で判断しないでください
脳しんとうは、見た目には分かりにくく、本人も軽く見てしまいがちなけがです。しかし、正しく休めば多くは数週間以内に回復する一方で、無理をすると回復が長引いたり、重大な事故につながったりすることがあります。
頭を打ったあとに少しでもいつもと違う様子があれば、一度確認しておきましょう。
次のような方は、当院へご相談ください
- 頭を打ったあとの頭痛・めまい・ぼんやりが続いている
- ぶつかった前後の記憶があいまい
- 子どもや選手の復帰時期を、医師に相談して決めたい
- ラグビーの復帰に必要な「段階的競技復帰証明書」について相談したい
当院では、頭部外傷の診察から、必要に応じた画像検査、スポーツ復帰のご相談まで対応しています。「これくらいで受診していいのかな」と迷う段階でも、どうぞお気軽にご相談ください。
「救急車を呼ぶほどではないけれど、このまま様子を見ていいのか分からない」——そんなときこそ、当院にご相談ください。頭を打った直後のご不安にも、復帰の時期のご相談にも、医師が対応します。
また、「もう症状はないから」と自己判断で戻る前に、一度ご相談ください。脳しんとうからの復帰は、段階を踏むことで安全性が高まります。チームや学校への復帰確認書のご相談も承ります。
参考文献
- 日本臨床スポーツ医学会 学術委員会 脳神経外科部会 (2015). 頭部外傷10か条の提言 第2版.
- 日本ラグビーフットボール協会 メディカル委員会・安全対策委員会 (2022年8月26日). (通達)脳振盪からの「段階的競技復帰(GRTP)」改訂について【安全対策】. https://www.rugby-japan.jp/news/51489
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