血管性認知症とは?——脳梗塞・脳出血のあとに起こる認知症
脳梗塞で入院した家族が退院してきた。命に別状はなくてほっとしたけれど、なんだか反応が遅い。涙もろくなった。もの忘れも増えた気がする——。これは後遺症? それとも年のせい? そんな戸惑いを抱えているご家族は少なくありません。
こうした変化は、血管性認知症のサインである可能性があります。脳梗塞や脳出血といった血管トラブルに起因する症状ですが、必要以上に失望することはありません。背景が明確な疾患だからこそ、進行を食い止めるための具体的な手段が打ち出せるという側面もあるのです。
この記事のポイント
- 脳梗塞・脳出血が原因で起こる認知症で、日本の調査では認知症全体の約2割を占めます
- できることとできないことの差が大きく、症状にむらがあるのが特徴です(「まだら認知症」と呼ばれることもあります)。脳卒中を起こすたびに階段状に悪化するタイプが典型です
- 予防と進行を抑える柱は、脳卒中を起こさない・繰り返さないこと。血圧管理が脳を守ることにつながります
血管性認知症とはどんな病気?
血管性認知症は、脳梗塞や脳出血によって脳の一部がダメージを受けることで起こる認知症です。ダメージを受けた場所によって症状が異なるのが特徴で、たとえば計算や理解はできるのに段取りができない、会話はしっかりしているのに新しいことが覚えにくい、といったように、できることとできないことの差が大きいため、「まだら認知症」と呼ばれることもあります。
もの忘れのほかに、意欲の低下、感情のコントロールが難しくなる(涙もろくなる・怒りっぽくなる)、動作や反応が遅くなる、歩き方が不安定になる、といった症状がみられることもあります。
経過にも特徴があります。ゆっくり進行するアルツハイマー型と異なり、脳卒中の発作のたびに階段状に悪化するのが典型です。一方で、小さな脳梗塞(ラクナ梗塞)が静かに積み重なり、気づかないうちにゆっくり進行するタイプもあります。
アルツハイマー型認知症を合併することも多く、両方の性質をあわせ持つ方も少なくありません。
どのくらいの人がなるの?
血管性認知症は、日本の調査では認知症全体の約2割を占め、アルツハイマー型に次いで多い認知症です。男性にやや多い傾向があります。
なりやすいのは、脳卒中を起こしたことのある方です。脳梗塞は再発しやすい病気で、日本の長期追跡研究では10年間で約半数が再発したと報告されています(現在は治療の進歩により、再発率は以前より下がっています)。
発作を繰り返すたびに認知機能が階段状に落ちていくため、再発予防がそのまま認知症予防になります。
高血圧・糖尿病・脂質異常症(コレステロールや中性脂肪が高い状態)・心房細動(しんぼうさいどう:脈が乱れる不整脈)・喫煙のある方は、リスクが高くなります。
なぜ起こるの?
原因は、脳の血管の病気です。大きな脳梗塞や脳出血のあとに起こる場合、小さな脳梗塞がたくさん積み重なって起こる場合、脳の深い部分の血流が長い間わるい状態が続いて起こる場合などがあります。
いずれのタイプも、背景にあるのは動脈硬化と高血圧です。つまり血管性認知症は、生活習慣病の延長線上にある認知症といえます。
どんな治療をするの?
率直に申し上げますと、一度ダメージを被った脳の働きを投薬によって元どおりに復元することは叶いません。現段階では、本疾患専用の根本治療薬も存在しないのが実情です。そのため、アプローチの軸は「新たな進行を防止する措置」、すなわち脳卒中が再び起きないよう防ぐ管理となります。
徹底した血圧コントロールを中心として、血流を滑らかに維持する薬剤(抗血小板剤や抗凝固剤)を投与するほか、糖尿病や脂質代謝の異常といった生活習慣病のケアも欠かせません。
同時に、リハビリの継続、日常生活の整流化、低下した意欲へのアプローチなどを通じて、残存している脳の力量を守り抜く姿勢が重要となります。なお、アルツハイマー病との混在が確認できる事例では、そちらへの投薬アプローチも合わせて実施いたします。
予防のためにできることは?
血管性認知症の予防は、脳卒中の予防そのものです。
血圧・血糖・コレステロールの管理、禁煙、節酒、減塩、適度な運動を心がけましょう。
心房細動を指摘されたら、放置しないことも大切です。心房細動は脳梗塞の大きな原因のひとつで、適切な治療で脳梗塞のリスクを下げることができます。
また、脳ドックでは、自覚症状のない小さな脳梗塞(かくれ脳梗塞)や白質病変(はくしつびょうへん:脳の深い部分の血流不足を示す変化)など、血管性認知症につながる変化を早めに見つけることができます。危険因子をお持ちの方は、症状のないうちの確認をおすすめします。
これって受診すべき?——緊急度の目安
- すぐに119番
- 急に、片方の手足の麻痺・ろれつの回りにくさ・激しい頭痛が出た(新たな脳卒中の可能性があります)
- 早めに受診
- 脳梗塞・脳出血のあと、もの忘れ・意欲の低下・感情の変化が目立ってきた
- もの忘れとともに、歩き方の不安定さや動作の遅さが出てきた
- 近いうちに当院へご相談
- 健診や脳ドックで「かくれ脳梗塞」「白質病変」を指摘された
- 高血圧・糖尿病などがあり、もの忘れが気になり始めた
※ご本人が受診に乗り気でない場合など、ご家族のみでのご相談は保険診療の対象外となります。まずはお電話でご相談ください。
よくあるご質問
アルツハイマー型認知症とはどう違うのですか?
アルツハイマー型はもの忘れが中心でゆっくり進行するのに対し、血管性認知症はダメージを受けた場所により症状がさまざまで、脳卒中のたびに段階的に悪化しやすいのが特徴です。両方を合併する方も少なくありません。
治りますか?
ダメージを受けた部分を元に戻すことはできません。ただ、脳卒中の再発予防を続けることで、進行をゆるやかにすることが期待できます。リハビリで機能の維持・改善を図ることも大切です。
予防できますか?
リスクを大きく下げることができます。血管性認知症の予防は脳卒中の予防そのものです。血圧の管理を中心とした生活習慣病対策が、いちばんの予防になります。ただし、対策をしていても脳卒中を完全に防げるわけではないため、定期的な確認が大切です。
脳ドックで「かくれ脳梗塞」と言われました。認知症になりますか?
すぐに認知症になるわけではありません。ただ、かくれ脳梗塞や白質病変のある方は、ない方に比べて将来の脳卒中や認知症のリスクが高いことが研究で示されています。血圧などの管理を始めるよいきっかけと捉えて、対策をご相談ください。
おわりに――「これ以上進めない」ためにできること
血管性認知症は、原因がはっきりしているぶん、予防と進行を抑える道筋も明確な認知症です。「脳卒中を起こさない・繰り返さない」——この一点が、脳を守る大きな対策になります。
当院の理事長は、認知症予防への取り組みを『認知症予防のカキクケコメソッド』(かんき出版)という書籍にまとめています。日々の生活でできる予防のヒントを紹介していますので、あわせてご覧ください。
Amazonで見る
次のうち、1つでも当てはまる方はご相談ください
- 脳梗塞・脳出血のあと、もの忘れや意欲の低下が気になる
- 家族が脳卒中のあと「人が変わった」ように感じる
- 高血圧・糖尿病があり、もの忘れが気になり始めた
- かくれ脳梗塞・白質病変を指摘されたことがある
ご家族のみのご相談も、お電話で承ります。
症状のないうちに脳の状態を確認しておきたい方には、かくれ脳梗塞や血管の状態をMRIで調べられる脳ドック(自費診療)もご用意しています。検査内容・費用・注意点は脳ドックのご案内ページをご確認ください。
参考文献
- 日本神経学会(監修)『認知症疾患診療ガイドライン2026』医学書院, 2026.
- 日本脳卒中学会 脳卒中ガイドライン委員会 編 (2025). 脳卒中治療ガイドライン2021〔改訂2025〕. 協和企画.
- 日本脳ドック学会(編)『脳ドックのガイドライン2026』中外医学社, 2026.
気になる症状は、お近くのクリニックへご相談ください
-
赤坂
菅原クリニック 東京脳ドック
- 住所
- 東京都港区赤坂5-2-20 赤坂パークビル2F
- アクセス
- 千代田線 赤坂駅より徒歩5分
- 診療時間
- 月〜土 9:00〜17:00(日・祝休診)
-
八王子
菅原脳神経外科クリニック
- 住所
- 東京都八王子市万町175-1 八王子クリニックビレッジ内
- アクセス
- JR八王子駅 南口徒歩8分
- 診療時間
- 月〜土 9:00〜12:30/14:00〜17:00(日・祝休診)









